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この会話が聞こえていたのか二が「青昏公園と南公園があるよ」と言った。どうやら青昏公園はあおくらこうえんと読むらしい。
場所を訊くと俺も行ったことのある公園であったから場所はわかった。ここから歩いて向かっても20分はかからないだろう。
「なんで公園の話題?」
二にツッコまれる。酒の席で急にこんな話しをするなんて不自然極まりない。ぬかったか、我ながら怪しすぎる。
「ああこいつ、いつもこうだから」と旧友が言い、続けて「こいつ急によくわからんこと言いだす人間だからあんま深い意味はないと思う」と言った。
なんという助け舟か。おそらく旧友はフォローしたつもりもないのだろうが、ふいに言ったこの言葉に誰一人俺を追及することはなかった。
ほっと胸をなでおろし、青昏公園の場所がわかったのは良いが、肝心のアイの正体が未だわからない。この二軒目の酒の席で名前がわかる場面もあるだろうと高を括っていたが、思いのほか皆名前を呼ばない。会話とはここまで人の名前を呼ばないものかと不自然に感じるくらいに時間は少しずつ過ぎていく。
二の携帯電話が鳴り、二は席を立つ。
二は戻ってくると急用で帰ると言い足早に去っていった。
二がアイであったとして、電話を口実として先に青昏公園へ行って待っているということだろうか。時間的に考えると可能性は高く思える。
時刻はすでに21時40分。もう猶予はない。
時間を気にする過程でふと思った。手紙に22時と時間指定してある部分がやや不自然だ。仮に一から四の誰かがアイであったとしてわざわざ時間指定する必要があっただろうか。例えば『22時』の部分を『このあと』とかそういった具合に表記する方がスムーズではないだろうか。そうすれば二次会なんて行かずに一次会で帰って公園で合流するほうが、わざわざ二次会に行って途中退出するより自然だ。
ここでもうひとりの可能性が浮上する。コンビニで会った元交際相手の存在。彼女が俺のポケットにこの手紙を忍ばせた可能性も否定できないと一瞬考えがよぎったが、彼女の名はチアキであるからして違う。
それに公園の位置から一軒目にしても二軒目にしてもやや距離がある。なぜ青昏公園を指定したのかも気になる部分ではあるがこれについてはわからない。
結局のところ正体はつかめないけれど、俺は二が退店した手口を模倣し鳴ってもいない携帯電話を手にして、もしもしと言いながら席を立ち、急用で帰ると残る者たちへ告げて店の門を出た。
時刻はすでに21時50分。急いで行っても少し遅刻するかもしれない。
向かう道中の坂道を少し早歩きでのぼりながら考える。三と四はまだ二軒目にいるのだから、三と四はないだろう。ということは一か二。このふたりのどちらかが手紙を忍ばせた。それにしても俺が彼女たちの心をつかむような印象を与えていたかといえば疑問だ。
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