あい捜し

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 建て前ばかりの当たり障りのない会話しかしていないと思う。互いに男女としての本質的な部分を理解し得るには不十分なやりとりだったはず、返ってそれが俺に興味をもったとか? いやいやそれはない、浮かれるなんて愚かだろう。これまでの人生どれだけ女に裏切られてきたことか。言ってしまえば女に限った話しでもないのかもしれない。人間なんてそもそも信用に値しない生き物で、考えなんてころころ変わる。雨の日が好きだと言っていたかと思えば次の日には晴れの日が爽快で一番好きと言ってみたり。それが人間であって、180度思想が裏返るのが人間という生き物なのだ。    青昏公園は今日ばったり出くわしてしまった元交際相手のチアキとよくふたりでバトミントンして遊んだ場所だった。公園はブランコに滑り台くらいしか遊具もないし、広場もバレーボールコートくらいの大きさしかない。比較的こぢんまりした公園である。    青昏公園周辺にある高い建造物といったら西に病院とマンションが二棟。ごみごみした場所にある公園というよりかは比較的閑静な区画にある公園だ。であるからして、夜の公園周辺は女ひとりで出歩くには少々怖さのある場所でもある。そんな場所でひとり待つなんてのは、いかに治安の良い日本であったとしても危険。そう考えると、この公園にいるであろうアイを迎えに行くという判断は少なくとも俺の正義心が自己肯定感を高めた。    青昏公園外周を囲う、ひし形に編み込まれた黄緑色に塗装されたフェンス沿いまできた。    俺はこの公園外周フェンス沿いを歩き、入口を目指す。    ところどころ黄緑色に塗装されたあみあみの金属部が剥がれてむき出しの部分は錆びている。正確には暗がりでそこまで見えてはいないが俺の記憶がそこを補完してこの公園の間取り図ごと立体的に捉えている。公園入口までまもなくだ。    ――声がする。    声のする方角に目を向けると公園内のベンチには女の後ろ姿。ベンチに座って携帯電話で会話しているようだった。    そして俺は公園内に踏み入るとズザズザと花崗岩が風化した黄褐色の砂が鳴る。この音を鳴らしながら歩み寄り、女はこの音に気付いて終話。携帯電話をバッグにしまってベンチから立ち上がり俺を待ち受ける。    その正体は、一。    公園外周を照らす黄ばんだ弱々しい街灯。最寄りの街灯は一の背後にあって対峙すると逆光、一の顔は鮮明には見えない。   「来てくれてありがとう」   「それは構いませんがなんの用でしょうか」   「その……もう一度やり直せないかな……」    もう一度もなにも以前が見当たらない。何に対してもう一度なのかさっぱりわからないが、一は少し間をおいて、   「チアキと」と言った。    聞くと一は俺の元交際相手チアキの姉であるようだった。今日俺の名を聞き、もしかして、と合コンの最中妹であるチアキにメッセージアプリで連絡すると俺がチアキの元交際相手であるということが判明。チアキが一に対して本当はやり直したいと語っていたことを思い出して今ここに呼び出したということだった。    なんて妹想いの良い姉だろう、なんてことはたいして思わない。むしろチアキからしてみても姉のお節介くらいにしか思っていないのではないか。   「ごめんなさい」    俺がそう告げると、一は「ベンチに座って!」と勢いよく俺に指示するものだから、その勢いに反論の余地なくベンチに腰掛ける。    一はバッグから携帯電話を取り出し、電話をかけた。   「ああごめん、ダメだった。……うん……そう、だから今から来て。……じゃ」  
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