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左から一、二、三、四、と俺の心の内で命名していた。いずれの女も三六歳前後らしい。
対して自陣の男は左から俺三〇歳、旧友三〇歳、上司四〇歳、上司の友人四〇歳。という布陣。
まあまあの独身をこじらせた両陣営は、立ち上がりから慎重に当たり障りのない交戦という名の対話を進め、徐々に進軍していくも両軍主な戦果をあげられないでいた。
四対四の合コンというのはひと繋がりのテーブルで談笑しているにも関わらず、もう取っ払われたはずの透明なアクリル板がそこを仕切るように、二対二の空間がふたつに分かれるケースが多い。
ご多分に漏れず左端の俺と旧友は真正面の一と斜め前の二の相手をしている。
今日の合コンはハズレ回。そもそも合コンなんてもので誰かと親密になったことなんてないし、これがきっかけでお付き合いやワンナイトに発展。なんてものは俺にとっては幻想そのものだ。それにこんな合コン会場にぬけぬけやってきて男あさりする女が俺は嫌いである。なんだか汚らしい。と、言えば負け惜しみのように聞こえなくもない。
だったらなんのために俺はここに来ているのかと問われたならば、俺は真剣交際の相手を探しにきているわけでもなく、ひと晩だけのパートナーを探しに来ているわけでもない。ただ楽しく酒を飲む、期待するだけ無駄な会。そう思っていた。
椅子にずっぷしと腰かけて、ズボンのポケットに俺の両手を突っ込んだ時である。
右ポケット、身に覚えのない紙の感触――。
旧友が一と二の相手をしている隙に俺はこの紙、A6ほどの紙が四つ折りになっているものを、まるでスマホの通知でも確認するかのようにこっそり開いてテーブルの下で確認する。
開くと丸みを帯びた字でこう記されている。
『22時 青昏公園で待ってる アイ』
この一から四の女の誰かが俺のポケットにこれを忍ばせたのだろうか。
現在の時刻20時55分。ドリンクのラストオーダーはすでに終えている。最後の一杯を飲み終えてこの場がお開きになるまでもうまもなくといったところだ。
この手紙の内容通りに青昏公園へ行くか行かないかはさておき、まず俺はアイという名がこの中の誰なのか見当つかない。
マイだか、ユイだか。あるいはアイという女の名を自己紹介で聞いた気がするけれど、誰一人興味なかったから名前なんていちいち記憶していない。もっともらしく言い訳するならば、人間の脳は無駄なことをインプットしないようあえて設計されているのだ。
この紙をいつ俺のポケットに忍ばせたのか。これはおおむね見当がついていた。俺が席を立って煙草を吸いに出た時かトイレへ行く時にでもポケットへ差し込んだのだろう。この半個室から退室する際には彼女たちの座る背後をまんべんなく一から四に向かって通り抜けなければならない。おそらくだが、その時に仕込むことは可能であっただろう。
問題はもうひとつある。俺は青昏公園がわからない。せいこん? あおがれ? どう読むのかすらわからない。俺の行ったことのない公園なのか。
あと、こんなハニートラップのリスクすら孕む誘いにぬけぬけと行く必要もないとは感じる。だから無視しても良さそうなものだ。
しかし女が公園でひとり寂しく待っている姿を想像すると、気の毒にも思う。
俺が行ったところで何を告げられるか知らないけれど、ふたりきりでの酒の誘いだろうが艶美な色香を纏わせた女の誘いであろうが、断りのひとつは告げてやったほうがいいだろう。
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