探偵の好奇心は泥沼に気づけなかった

4/5
前へ
/5ページ
次へ
 俺が思わずそんな声を出してしまったから、後ろのご婦人が不安そうに「どうしました!?」と身を乗り出してきた。慌てて俺は振り向き「いや、大丈夫です。もう少しで調査終わりますから、まぁ、ご婦人はお茶でも飲んで待っていてください」と告げて半ば強引に部屋から追い出した。  行方不明、とはいえこの文章を見た後だと自分で黙って出ていった可能性の方が濃厚だ。ひょっこり帰ってきた時に「母親に恋人とのやりとりを全部見られた」なんて発狂ものだろう。せめてそれだけは娘さんのために避けておいてあげよう。 「まぁ、俺は読むが」  気を取り直して俺は続きを読み始めた。  2023年12月20日   クリスマスで聖なる夜を過ごしましょう。  ルビーの指輪を貴女のために用意しました。是非伝えたいことがあるので聞いて頂ければと思います  しっかりと温かい格好をしてくださいね、当日は非常に冷えるとのことでしたから。  メリークリスマス。あなたに早く会いたい。 「……あ?」  ここまで相手の文章を読んだ俺は違和感に読む手を止めた。  返事の「すごく楽しみ!」「メリークリスマス♡」「目いっぱいおしゃれするね」という言葉も勿論絵文字の点滅でチカチカして気になるが、それよりも、チョコという男の文章だ。 「いや……まさか、な」  急に背筋が冷えてきた俺は、心なしか震えてしまう指でマウスをスクロールさせた。  ==これ以降は未読メッセージです== 「え」  飛び込んできた文面に、俺は目を見張った。  次のメッセージの日付は、12月25日。  なら、この間に彼女は行方不明になったということだ。  だが、俺が見ているSNSのメッセージはおそらくスマホでも見られるはずだ。なのに、未読。そして、今日の日付は1月3日。日付的に一週間と少しという、行方不明になった日数と一致する。  嫌な汗が、背中を伝った。  俺は、未読となっているメッセージを読んだ。  2023年12月25日  ざまぁみろ  人を自殺に追い込むクズ女 「……っ!」  俺は思わず後ずさりし、滑って尻餅をついてしまった。その物音に気付いたのだろう、下の階から「どうしました!?」と声を上げたご婦人がこちらに向かってくる足音が聞こえた。彼女にどう説明すべきだろうかと俺が立ち上がると、ピコンと通知が鳴った。それは、目の前のパソコンからだった。  2023年1月3日  誰か知らないけど、いいこと教えてあげる。  全部縦読みしてみ。  ヒュッ、と一瞬息が吸えなくなった。  そんな俺の目の前で、次のメッセージが現れた。  ==相手のアカウントが削除された為以降はメッセージを打てません== 「なっ」  俺は慌てて自分のスマホを取り出し今までのメッセージを撮った。その判断は正解だったようで、最後のメッセージを撮ろうとしたところでメッセージすべてが消えた。  ==あなたのアカウントは通報された為無期限凍結されました== 「……う、わ」  あまりにもな状況に俺が言葉を失っていると「大丈夫ですか!?」とご婦人が入ってきた。俺はそれには答えれず、先ほどスクショしたメッセージたちを読み直した。  すべて縦読みした俺は、思わず声に出す。 「くそ女、1いちうざい」 「え?」 「きもいださ女」 「は?」 「クルシメ」 「ちょっと……?」  訝しげな声になっていくご婦人に振り向き、俺は震える声で告げた。 「ご婦人。娘さんは、誰かの恨みを買っていて復讐されたみたいです」
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加