2. そして、今

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「……そうなんですか?」 「はい。彼の最後の場所……」  温子は、そんな言い方をした。 「そこで、流れる水を見つめてるうちに、私の心の中で何かが崩壊して……」  入水しようとしたが、通りがかった人に止められ、叶わなかった。それであの夜、風邪薬を大量に飲んだのだと。 「……わかる気がします」 「ありがとうございます。あなたは優しい人。だから電話したんです」  穏やかな笑みを向ける。 「やっぱり来てくれた。救われた気がしました」 「……そうでしたか」  心を病んだ彼女は、大学を中退し、故郷の京都に戻って、数年間静養したのだと言った。 「根本中堂に行きませんか? お見せしたい物があります」  吹っ切れたような笑顔で温子が誘った。 「何でしょう?」 (もしかしたら……?)  歩きながら、達哉はあるものを想像していた。 「あれです」 「やはり……私もいつか、あなたと一緒に見たいと思っていたんです」 「えっ……?」 「そうです。あの時から」  二人は穏やかに見つめ合った後、薬師如来と三つの不滅の法灯に向けて手を合わせた。 「毎年、この時期に来たいなと思っています」 「はい」 「温子さん、その時は、ご一緒していただけますか?」 「はい。待ち合わせは、哲学の道の喫茶店で」  不滅の法灯の向こう側から二人を見守る薬師如来の眼差しが、いつにも増して優しく見えた。                         (完)
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