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「どうぞお掛けください。私は同席しても構わないですか」
椅子を勧める芙季に、蒼依は微笑んだ。
「もちろんです。芹沢さん、発熱されたと伺いましたが、下がられたようで良かったです。怪我もたいしたことがないと聞いて、私どももとても安心しました」
いきなり素手で心臓を掴まれた気がした。
寿の怪我はたいしことないが、粋の怪我は大変なんだと、暗に語られているように思えた。
「ありがとうございます。それで、誤解とは……」
「その前に、こちら、私からお見舞いでございます」
淡いピンクのリボンが掛かった箱をベッドの上に置いた。
「賠償に関しては、改めてチームの弁護士から連絡が行くかと思いますので、ご対応をお願いします」
何の賠償なのか、寿にはすぐに理解できなかった。
「賠償とはどういった意味でしょうか」
芙季も理解できていないのだと思ったが、表情を見ればそうでないことは明らかだった。
芙季の表情は、今までにないくらい強張っていた。
「御坂粋の怪我についてです。私から詳細は申し上げられません。そちらもお仕事に支障が出るでしょうから、チームの弁護士とご相談ください。今回の事故は、芹沢寿さん、あなたの誤った理解で起こりました」
さっきからずっと心臓を掴まれたままだ。
苦しくて悲しくて呼吸すら難しい。
「私が彼の部屋にいたのを見てあなたは動揺したのでしょうが、あの部屋にはウィレムもいました。私と彼が近い関係であるのは間違いありませんが、あの日はチームの皆と彼の部屋で食事をする予定でした。そこに、あなたは突然訪問し、勝手に勘違いをして帰ろうとしたんです。そこで階段から落ち、彼を巻き添えにした」
感情的に捲し立てるわけでもない。泣き喚くわけでもない。
チームの代表然として、蒼依は淡々と、堂々と落ち着いていた。
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