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「でもね、一緒に外国に行ったほうがいいって、おばあちゃんは思うよ」
また耳を疑った。
祖母は寿を見ていた。真剣な眼差しだった。
「家族は一緒に暮らしたほうがいい。行けるなら、一緒に行ったほうがいい。でも、行くのが難しくて日本に残るなら、帰って来ればいい。あんたを助けたいと思っている人のそばにいたほうがいい。でもね、寿。一番いいのは、あんたが自分の気持ちに素直になることだよ」
祖母の言葉は寿の心に沁みた。でも、気持ちは決まらない。どれを選択しても寂しい。それだけは分かった。
粋と離れるのは辛くて苦しくて寂しい。
でも、家族と離れるのも、同じくらい寂しい。
不思議だった。
ずっと、粋と離れて、家族と離れて、一人で外国で暮らしてきた。
あの時は、寂しいなんて感じなかった。だから、今、こんな思いを抱えることが不思議だった。
「おばあちゃん入るよ」
襖が開いて、粋が部屋に入って来た。
「入るよではないだろう。入っていいですか? じゃないのかい?」
「ああ、ごめんごめん。入っちゃった。この間咳してたろ? 大丈夫? これ持ってきたんだ」
粋はポケットから小さな箱を出すと、炬燵に足を入れた。
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