Withered Tears

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「驚いた……」  芙季が呟いたのは蒼依が出て行ってしばらくしてからだった。 「あの人、神部さんだっけ、メンタルドクターって言ってたけど」  メンタルドクターは、粋が明るくなったきっかけだ。  男だとばかり思っていたが、女だった。 「私どもとか、弁護士から連絡がとか、まるでオーナーか何かのセキュレタリー気取りね。一介の医師があそこまで言うのは疑問だわ」  吐き捨てるようにして、ゴミ溜めでも見るように、酷く顔を顰めた。珍しく芙季が怒っていた。 「賠償だの会うなだの何様のつもりかしら。任せなさい、買収でも何でもして、明日までに御坂に会わせてあげるわ。賠償ですって? いいわよ、裁判で戦ってやろうじゃないの」  裁判は嫌だった。粋と敵同士にはなりたくない。 「……賠償請求来たら、できるだけ支払うから言って。私の貯金では足りないと思うけど。仕事を頑張るから」 「何言ってんの! 何であなたが御坂の賠償をするの」  寿がゆっくりと芙季を見上げると、困ったように息を吐いた芙季に抱き締められた。 「弱気になるのも分かるわ。でもね、私は御坂粋を信じてるわよ」  寿を守ろうとする気概も柔らかくて柔らかい温もりも、とても嬉しかった。 「うん。私は大丈夫、弱気になんてなってないよ。ねえ、さっき芙季さんが言ったこと、本気?」 「裁判で戦ってやるっての? 本気よ」 「それではなくて、買収のほう」  呆気にとられたのか、口を半開きにして芙季が見ていた。
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