Withered Tears

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「買収のアテある? 私、今すぐにでも粋に会いに行きたいんだけど。あの人、黙って聞いてれば、彼のためにとか、彼と近い関係とかさ。私は粋の恋人だもん。言われっぱなしは腹立つ。だから、粋に確認してくる」  寿は立ち上がると着せられていた検査着を脱いだ。ロッカーから、雨と泥で汚れたシャツとカーデガンを出した。 「これ着たら駄目かな。キャリーケース、アンベルの家で保管してくれているから、綺麗な服がないんだよね。服着て、マスクして、入院患者ではない振りをして行けば、気付かれないよね」  シャツのボタンを留めて、スカートを穿いた。 「……本当はね、怖いんだ。お前のせいだって、粋に攻められるかもなんて、考えちゃうんだよね。むちゃ弱気なの。でも、芙季さんが言ってくれたから」  寿は芙季に向き直って笑った。 「御坂粋を信じてるって」  一瞬ポカンとした表情になって、すぐに眉を顰めた。 「芙季さんは粋と付き合っていることを諸手を挙げて賛成してないって思ってた。今もきっとそうだろうけど、でも、信じてるって言ってくれて嬉しかった。私ももっと粋を信じなくちゃって」 「……ちょっと待ってなさい」  芙季が病室を出て行った。  寿は髪に櫛を入れ、さっき芙季がしてくれたように荒れた唇にリップを塗った。  ヒールに付いた泥をティッシュで落として、素足に履いた。  粋に会えたら、なんて言おうか。  ごめんねと謝る?  あの女は何と責める?  どうして寿を庇ったのかと、怒りながら泣く?  全部違うと思った。  言いたいことは、一つだけだ。
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