Withered Tears

21/21
前へ
/348ページ
次へ
「凄いな、英語がペラペラじゃん。芹沢は高校の時から勉強できたもんな」  見慣れた屈託のない笑顔だ。  口の中が粘ついた。喉の奥はカラカラだ。今までで一番の速さで心臓は鼓動を打っていた。 「……スマホはないの?」  なんとか口中の唾液を集めて喉を湿らせた。それでも、声は掠れていた。 「部屋に置いてきちゃったみたいでさ。ウィレム……ウィレムって、あの、ウィレムだよ。芹沢も知ってるだろ?」  知っている。何度も話した。 「明日、ウィレムが持って来てくれるって。もしかして、LINEくれてた? よく入院してるって分かったな。誰かに聞いたの?」  寿は首を横に振った。  こういう時、真実を話していいのかどうか、寿は分からなかった。でも、そのうち誰かかの口から耳に入るなら、自分から告げたかった。 「私は粋の恋人だよ」  粋が訝しげに首を傾げた。 「私と粋はつき合っていたの。粋は私を寿って呼んでたよ。粋はプロポーズもしてくれたの」  粋の黒目が小さくなった。 「たぶん、粋は、私に愛想を尽かしていたんだよ。それなのに、連絡もしないでお部屋を訪ねたの。その怪我は私のせいなの。粋が階段から落ちたのは、私が原因なの」  粋の黒目がもっと小さく小さくなった。  鼻の奥が痛かった。枯れていたはずの涙で、視界が滲んだ。
/348ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1714人が本棚に入れています
本棚に追加