Fragments

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「明日、足の手術なんだ。それからしばらくリハビリして、歩けるようになれば退院できるらしい。退院したら、また会おう」 「……お見舞いに来てもいい?」 「お見舞い必要ないよ。情けない姿を見せたくないし、負担も掛けたくないから。次に会うまで、何か少しは思い出せると思うから、待っててくれる?」  できれば毎日お見舞いに来たかった。毎日会いたかった。粋の身の回りのお世話をしたかった。 「……あの人には、情けない姿を見せてもいいの?」  涙は簡単には止まらなかった。溢れるたびに、蒼依の来訪が頭の中で再生される。  粋と近い関係にあると言っていた。粋をサポートすると言っていた。  なぜ、蒼依はよくて寿は駄目なのか。  もう待つのは嫌だった。 「あの人って……ウィレム?」 「違うよ、レオネンのメンタルドクターの人だよ。あの人には負担を掛けて情けない姿を見せるの?」  粋の顔に焦りみたいな色が見えた。眉がピクリと動いて、口の端に力が入ったのが分かった。 「あの人は、チームのメンタルドクターだから……。芹沢、もしかして会ったの?」  何かあったのだと容易に想像できた。 「……浮気したの?」  涙と一緒に洟水まで垂れてきた。粋の枕元にあったティッシュを数枚取って、洟をかんだ。 「怒らないから正直に言って。私を覚えていなくても、あの人と何があったかは記憶にあるんだよね?」 「ないないない! 何もない! 神に誓える。浮気はしてない。本当だよ」  必死だ。必死すぎる。  いつも粋はこんな感じだった。  本人が意図しないところで、いろんな人が近付いてくる。人を疑わないから、親切にして好きになられて、広瀬たちにも怒られていた。
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