Fragments

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「浮気はしてないって、は、って何? 浮気ではなくて何をしたんだよ! バカ粋! 阿呆粋!」 「芹沢待て、落ち着け! 確かに、芹沢と付き合っていた記憶はない。まだなんか他の記憶もぼんやりしている。でも、一つ言えるのは蒼依さんは綺麗だけど俺のタイプではない。そんな気がする。それに」  たぶん、凄い顔をして睨んでいたのだろう。慌てた粋が体を動かした。立とうとしたのだろうか、足を床に下ろした。硬いリノリウムに触れた途端に痛そうに顔を顰めた。  足は、ガチガチに固められていて、粋の太ももと同じくらいの太さに見えた。 「それにさ、俺は浮気できないと思うんだよ。嘘は吐けないし不器用だし。今まで俺が浮気したことある?」 「……ないと思う」 「だろ?」  よほど痛かったのだろう。安堵した表情に汗が浮かんでいた。  怪我人に向かって、何をしているのだろう。  記憶が朧気で、一番不安なのは粋なのに。分かっているのに、問い詰めた自分が許せなかった。情けなかった。 「……ごめん。私、浮気したの? とか偉そうに言って。冷静に考えたら、そんなこと言える立場じゃないのに」  もう一度洟をかんで、大きく息を吸い込んだ。 「待ってる。大丈夫。ごめん、変なこと言って。退院したら連絡してね。そうしたら、会いに来るから」  寿は立ち上がり、折りたたみ椅子を畳むと元あった壁に立て掛けた。 「怪我をさせてごめんなさい。私、どんな賠償でも受けるから。チームにもそう言ってください。連絡待ってるね」 「おい。芹沢、待って」  後ろで声がしたが、寿は振り返らずに病室を出た。
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