Fragments

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「芹沢は、俺を嫌いになった? それとも、ずっと前から気持ちは冷めてた?」 「冷めてない。嫌いになんてなるわけない。でも粋は、私を避けるような態度を取ってた」  別れる、心変わり、窮屈、避ける。  自分の口から飛出した言葉が、質量を伴って寿にのし掛かった。  粋の表情から気持ちを推し量るのが辛くて、寿は俯いた。 「仮にその時の俺はそう思ってたかもしれないけど、今は違う。避けようとか窮屈とか思ってない」 「……全部思い出した時、窮屈だと思っていた気持ちも蘇るかもしれないよ。そうしたら、また避けるの?」 「避けない。思い出しても、避けたりしない。約束できる」  粋が黙ると、部屋の中から音が消えた。寿が何か言うのを待っているのかもしれない。  何で約束できるなんて、軽はずみに言えるのか。  全部思い出して、やっぱり寿とは一緒にいられない、そう言われたらどうすればいいのか。  初めてヘンクを訪れた時、帰りのタリスの中から見た粋の姿が脳裏に浮かんだ。泣きじゃくる寿と目が合ったのに、粋は目を逸らして背を向けた。  あんな思いは、もう二度としたくなかった。
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