Fragments

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 粋が口を開いたのは、しばらく経ってからだった。 「……賠償金がどうとか言ってただろ。あれ、大丈夫だから」  ぎこちない空気に、複数張り詰められた糸の一本を粋がいきなり指先で弾いた。 「蒼依さんに聞いた。あの人は気ばかり焦ってなかなか馴染めない俺を気に掛けてくれていたんだ。俺が怪我をして、今季絶望かもしれないと思ったら、怒りに任せて酷いことを言ったって後悔して泣いていたよ」  いつまで経ってもレオネンの弁護士から連絡は来なかった。芙季ははったりだと言っていたが、ずっと嫌な感じがしていた。  このタイミングで蒼依の名前を聞くなんて、嫌な予感は当たるものだと、妙に感心した。 「あ、でも、泣いてたけど、変に慰めたりしてないよ。病室で、蒼依さんと浮気してるんじゃないかって疑ってたろ。あの後、ウィレムから話を聞いて合点がいったよ。寿がやって来た夜、俺は蒼依さんに迫られていたらしい」  嫌な予感に胸がぎゅうぎゅうと締め付けられた。  迫られて、抗えずに、何かをしたかもしれない。キスぐらいはしたかもしれない。背の低い蒼依に合わせて背中を屈めて深いキスを繰り返す粋を想像して、呼吸を忘れるぐらいに嫉妬した。  想像は、寿の頭の中でどんどんと拍車を掛けていった。
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