Fragments

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「ううん。またルージュが付いちゃうから」  寿は立ち上がると粋の頭の傷に触れた。 「頭の傷はまだ痛む? 足も……足も痛い?」 「頭の傷はもう痛くない。足も、わりともう大丈夫だよ。ごめんね、心配を掛けて。蒼依さんのことも、ごめん」 「……メンタルドクターの人のことは、もう大丈夫。私、これからはできるだけ粋のフォローをする。粋が早く復帰できるように、粋と一緒に住んでお世話する」  粋が視線を逸らした。  スマホを見て、慌てだした。 「あ、ヤバいよ、アンベルから催促のメッセージが来た。早く降りよう」  そっと背中を押された。背中に触れる手に躊躇いを感じて粋を見上げた。困ったように眉尻を下げている。  そんなにソフィは怖いの? そう訊こうと思った時だった。寿のスマホからLINEのビデオ通話の着信音が鳴り出した。  二人は顔を見合わせた。 「誰だろう。芙季さんだったら、ワッツアップで架けてくると思うんだけど……。ちょっと待って」  テーブルに置きっ放しにしていたスマホを手に取った。着信は母の佐知子からだった。 「お母さんだ……。今日本って、深夜だよね? 何だろう」  寿は通話ボタンをタップした。 「もしもし? お母さん、どうしたの?」 「あら、本当にLINEって海外にも繋がるのね……ちょっと待ってね。ほら」  確かに佐知子の声だった。いったい、どうしたのだろう。ガサガサと音がする。次の言葉を待っていると、意外な声が聞こえてきた。 「もしもし……あー、元気だったか?」  電話の声は父親だった。  一方的に用件だけ話すと、父からの電話はすぐに切れた。口振りも声色も素っ気ない父の用件は、到底信じ難い内容だった。
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