Fragments sui side

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 混沌としていた。  墨色しかないところでずっと藻掻いていたら、声が聞こえた。 「……ごめんなさい、ごめんなさい」  咽び泣く声に聞き覚えがあったけれど、どうしても思い出せない。  声が出ない。  細い背中を抱き締めたいのに、体が動かない。  鉛になったように、腕も足も重くて痛かった。  泣かないで。……のせいではないから。……に怪我がなくて良かった。  ごめんね、どうしてか君の名前を思い出せないけど、泣かないで。  瞼の裏に光が透けだした。  泣いている声とは違う声が聞こえてきた。 「スー……」  この声も知ってる。これは、蒼依さんだ。  光が濃くなる。目に一杯の涙を溜めて俺の顔を覗き込む蒼依さんの顔が見えた。 「……あお……いさん?」  夢から醒めたのに、体中が痛かった。頭も喉も痛い。凄く、喉が渇いている気がした。 「良かった……! 良かった……。待ってて、ドクターを呼んでくるから」  蒼依さんの涙が、頬に落ちてきた。  目玉を動かして周りを見た。ここは病院らしかった。  やってきたドクターに話を聞いて、自分の置かれている状況をぼんやりと把握できた。色々と検査をされて、記憶障害を起こしていることが分かった。 「階段から落ちたの。覚えてない?」  蒼依さんが神妙な面持ちで聞いてくるけど、全く思い出せなかった。 「それよりも、足が痛いんだけど」  右足首がズキズキト痛かったし、ガッチリと固められているのも気になった。 「階段から落ちた時に、右足首を……骨折したのよ。明日、手術だよ」  さっき、ドクターが話していたのは、この足のことだったらしい。手術がどうとか、言っていた。 「そうか。でも、俺、なんで階段から落ちたの?」 「……ファンの子が、あなたの部屋に押し掛けてきて、それで。私はあなたの部屋にいたの。それも覚えてない?」  首を横に振った。
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