Fragments sui side

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「パーカーを借りてるの。今度持ってくるね。入院中も使えるでしょうから」  なんで俺の部屋に蒼依さんがいたのか、パーカーを貸したのか、それも分からない。 「私のことを好きって言ってくれたのも、覚えてない?」  俺は、この人と付き合っていたのか?  違う気がした。直感だった。 「何冗談言ってるんですか。笑えないですよ」  蒼依さんの顔が険しくなった。泣き出しそうな顔のくせに今にも殴られそうな圧がある。  好きって言ったのか? 俺が、この人に? 「まあいいわ。この後、一般病棟に移るんですって。クラブに電話してくるわね」  集中治療室は落ち着かない。  一般病棟に移れるのは嬉しかった。静かなところに行きたかった。  蒼依さんが出て行ってしばらくして、アンベルがやって来た。ウィレムもやって来た。  記憶障害を告げると、二人とも驚いていた。  階段から落ちたのは、ファンの子が突然やって来たからなのかと訊いてみたら、アンベルに引っ叩かれそうになった。 「”やめろ、アンベル。スーは覚えてないんだ”」 「”でも、ファンの子って……酷いよ。スー、本当に覚えてないの?」 「”アンベル! スーはさっき意識を取り戻したばかりなんだ」  ウィレムの怒鳴り声に看護師がやって来た。怖い顔で二人に注意している。そりゃそうだ、ここは、集中治療室だ。 「”また来るよ。意識が戻って本当に良かった”」  アンベルは最後まで俺を睨んでいた。  疲れた。  あの夢の声は誰だろう。アンベルでも蒼依さんでもない。  泣かないで、そう伝えられたらいいのに。  眠ったら、またあの夢を見るだろうか。  目を閉じたら、いつの間にか眠っていた。
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