Fragments sui side

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 本当に病院は大丈夫なのだろうか。  蒼依さんの病院は、いつも混んでいて忙しそうだとマシューが言っていた。それなのに、俺の看病をずっとしていたのだとしたら、申し訳ない。退院したら、ご飯でもご馳走しないと駄目だろうか。  でも、そんなことをしたら、あの女の子がまた泣くかもしれない。  あの子はたぶん。 「コトブキ」  さっきウィレムが言っていた名前だ。なんて縁起のいい名前だろう。コトブキが、夢で泣いていた女の子なのか。  考えても分からない。ウィレムの置いていった雑誌を開いてページを捲った。  またドアがノックされた。蒼依さんが戻ってきたのか。  入ってきたのは看護師だった。体を起こすと、寝ていろとジェスチャーされた。  後ろから、もう一人入ってきた。  懐かしい顔に、思わず大きな声が出た。 「芹沢! 久しぶりだな、こっちに来てたのか」  後ろにいたのは、葦沢高校のサッカー部の後輩の芹沢だった。  なぜか、夏休み明けに、いきなり一人で入部した女の子だ。  ぶっきらぼうで強くて、いつも不機嫌そうに睨まれたが、俺がゴールを決めると嬉しそうに笑ってくれた。  背が高くて美人だったけど、今の芹沢もかなりの美人だ。  でも、顔色が悪い。白い顔でやつれて見えた。  芹沢は、大きな目をこれでもかと見開いて俺を見ていた。  もしかしたら、俺は芹沢と何かを約束していたのかもしれない。  だとすれば、その約束は頭からすっかり抜けている。たぶん、たくさんある脳の引き出しのどこかに入ってしまって、頭を打った衝撃で引き出しが開かなくなってるんだろう。  わざわざお見舞いに来てくれたのかもしれない。  こんな異国の地までやって来た芹沢に対して、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。  
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