Fragments sui side

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 芹沢の表情はなんとも形容し難かった。  泣きそうな、怒っているような、幻滅しているような、呆れているような。美しい顔は、いろんな感情が混ざったせいで歪んでいた。 「頭を打っちゃってさ、直前の記憶が今はないんだよ。医者の話だと、脳には異常がないから徐々に思い出すはずだって。もしかして、連絡くれてたりした? 会う約束とかしてたのかな。覚えてなくてごめんな。あ、座りなよ」  病室の壁には折りたたみ椅子が立て掛けられていた。それを指差したが、芹沢の顔はさっきと何も変わらない。  さすがに、わざわざ来てくれた後輩に対して、自分で椅子を取っては失礼だった。気心知れた山原や里中ならまだしも、芹沢はサッカー部でマネージャーをやっていた、それだけの付き合いだ。 「ちょっと待ってて、椅子を出すよ」  ベッドの横には松葉杖が立ててあった。使っていいのだろうか。  クッションみたいなものに乗せられて高くされていた足は、太股の付け根辺りに力を入れると動いた。松葉杖を手にしたら、芹沢の顔が我に返ったような顔になった。 「大丈夫、立たなくていいから。そこにいて」  芹沢は慌てて折りたたみ椅子を広げた。  一緒に来た看護師を振り返り、流暢な英語で芹沢はお礼を言った。やっぱり、芹沢はお見舞いに来てくれたようだった。  さっき、この病室に移動してきたばかりだ。怪我のことをいつ誰に聞いたのか不思議だったが、それよりも、まるで外人みたいな英語に驚いた。 「凄いな、英語がペラペラじゃん。芹沢は高校の時から勉強できたもんな」  芹沢は頭が良かった。山原がよく勉強を教えてもらっていたし、確か、いい大学に入ったはずだ。聞いたような気がするが、思い出せなかった。
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