Springtime Reunion

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 パリ北駅からタリスに乗車して、もうすぐ一時間半が過ぎる。  タリスはフランスとベルギーの鉄道会社が運営する国際高速鉄道だ。これに乗れば、一時間半でブリュッセルまで来れる。  アナウンスが流れた。  英語、オランダ語、フランス語の三カ国語での案内だ。  三月とはいえ、東京と違いパリは寒かった。厚手のコートを羽織り、バックを手にして、芹沢寿は席を立った。  昨年の十二月だ。寿が先にパリに発ち、年末に、恋人の御坂粋がベルギーに発った。  寿は、一月に行われる春夏のオートクチュールに立つために。粋は、ベルギーのプロチーム『グルーネ・レオネン』への移籍のために。二人は近い再会を約束して、別々の国に旅立った。  列車が、ブリュッセル南駅のプラットホームに入った。  このどこかに粋がいるはずだ。  約束していた年末の逢瀬は叶わず、結局、三か月ぶりの再会になった。  最初の頃は毎日のようにしていたビデオ通話は、一日おきになって、今では三日に一回になった。  寂しくないといえば嘘になるが、でも、粋に負担を掛けたくなかった。  言葉が上手く通じずに苦戦しているのも分かったし、ハードな練習で毎日ヘトヘトになっているのも伝わってきた。  そのうち、寿もファッションウィークが始まり、各国を回る日々になった。  秋冬のファッションウィークが終わって、粋の試合も全て終わって、やっと会える日を約束できた。  列車が停車して、ドアが開いた。  一つ、粋が元気がないのが気懸かりだった。  寿が粋の癒やしにならればいいと思ってやって来た。少しでも元気になってくれたらいい。  ホームに降り立ち、寿は粋を探した。
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