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昼を過ぎたところで、やっと待合室が空いてきた。
車で待っている粋にLINEをした。五分ほどでやってきた。
「張ってたの、治まった?」
心配そうに眉を顰めて、寿が座るソファの横に立つと腰を屈めた。
髪は以前の長さに近かった。ウェーブのかかった長めの髪が、屈んだ粋の睫毛に掛かった。同時に、パーカーの紐が揺れた。
もうだいぶ空いてきたから、座ればいいのに、粋はいつも立って待つ。
「大丈夫だよ。座ってたら治まったから。朝の散歩を張り切り過ぎたかな」
早朝ランニングをする粋を途中まで迎えに行くのが、寿の日課だった。
冷えてきた秋の朝の空気は、ちょうどいい具合の湿度でとても心地がいい。
今朝は、迎えに行って帰ってきてから腹が張って硬くなっていた。健診にはバスに乗って一人で行くつもりだったのに、心配した粋がついてきた。
「明日からしばらくはお休みだな」
「お休みしなくても、距離を短くすれば大丈夫。時間をもう少し遅く出るようにする」
粋が納得していないのは一目瞭然だった。
「お医者さんに訊いてみよう。それからだな」
難しい顔をする粋の前に、小学高学年ぐらいの男の子が立った。粋をじっと見上げている。
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