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「あの……御坂粋選手ですか?」
「うん。俺のこと知ってるの?」
「めっちゃ大ファンです! 握手してください」
頬を紅潮させて、小さな手を差し出した。
ここに来ると、結構こういうことがある。
本当は、都内にあるもっと閉鎖的な高級産婦人科にしたほうがいいと芙季に言われた。でも、実家から近いこの病院にした。
ここは、寿が産まれた病院だ。将も錬も、ここで産まれた。どうしてもここが良かった。
握手の後、「サインもするよ?」と粋が言うと、男の子の顔が綻んで、寿の隣に座る母親の元へ駆けてきた。寿と同じぐらいの週数だろうか。母親は手帳とペンを子供に渡して、隣に座る寿に頭を下げた。
「健診に来られているのに、すみません。ありがとうございます」
「いいえ、彼も好きでやっているので気になさらないでください」
男の子は粋にサッカーのことをいろいろ質問していた。
粋は子供が好きだ。こうやって子供と話す粋を見ると、胸の奥に甘酸っぱい感じが広がって、きゅっと苦しくなった。
まだ性別は訊いていない。
粋は早く知りたいみたいだが、寿は出産まで知らなくていいと思っていた。男の子でも女の子でも、絶対に可愛いはずだ。
でも、準備のために訊いておいたほうがいいと佐知子に言われて、今日の健診で訊こうと思っていた。
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