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「御坂さーん」
診察室のドアから看護師が顔を覗かせた。
咄嗟に粋の顔を見て、自分も御坂だったと気が付いた。
男の子に手を振って、粋と二人で診察室に向かった。
「性別、聞かなくていいや」
不意に粋が呟いた。
「聞かなくていいの」
「うん。あんまり関係ないかなって。最初は皆に聞かれるから知りたかったけど、女だろうが男だろうが俺たちの子どもだし。お母さんの用意がってのも分かるけど、この子が何色が好きかなんて、聞いてみなきゃ分からねぇだろ? だからさ、最初は、全部白とかベージュで良くない?」
診察室に入ってからも粋の言葉は続いた。
「生まれてきたら、自分で選ばせようぜ。大きくなってから文句言わせないように」
知らんぷりして聞いていた看護師が吹き出した。
「ごめんなさい。……御坂さんのご主人はユニークね」
恐らく、佐知子と同年代くらいの看護師は、楽しそうに忍び笑いを漏らした。
「生まれてから赤ちゃんにベビー・グッズの色を選ばせようなんてお父さん、初めてですよ」
「だってほら、男だってピンクが好きかもしれないし、女の子で青が好きな子もいっぱいいるじゃないっすか。あれです、ほら、何だっけ、最近テレビでよく聞く……」
「多様性?」
「そう! こいつらだって小っこくても意思はあると思うんすよ」
先生まで笑い出した。
「確かにご主人の言う通り、赤ちゃんにも意思はあるけれど、それはお腹が空いたとか暑い寒いとか、本能的なものなのよ。大人が抱く意思とは違うわ。だから、色を選ぶっていう意思はまだまだ先かもしれないですね。ただ、赤ちゃんの頃からたくさんの色を見せてあげたり、たくさんの感触を体験させてあげたりするのは、とても重要だと思いますよ」
粋が小鼻を膨らませて、得意満面で寿を見た。
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