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寿が笑うと粋も笑った。
幸せだ。悲しかったり辛かったこともあったけれど、概ね幸せだった。
粋と出会えて良かった。結婚できて良かった。粋の子供を妊娠できて良かった。心からそう思う。
診察を終えて待合室に戻ると、さっきの男の子が駆け寄ってきた。
「御坂さん、昨日の試合観た?」
昨日の試合とは、ワールドカップの最終予選だろう。
なんと今回、山原が召集された。後半、交代で出場を果たした山原の素晴らしいアシストで一点入った。これが決定打となり、日本は勝利を収めて勝ち点3を獲得した。
「あったりまえじゃん! 山原のナイスアシスト観たか?」
「うん! 凄いパスだった」
「だろ? 俺の後輩なんだよ、あいつ。高校の時から上手くてさ、俺もいろいろ教えてもらったよ」
教えてやったではなく、教えてもらったと、恥ずかしがることなく言えるのが、粋のいいところだ。
本当なら、粋も召集されるはずだった。悔しい思いをしたはずなのに、寿に対してもおくびにも出さない。
サッカーの話題になるたびに、申し訳なさに胸が締め付けられた。でも、そんな寿を粋が苦しそうな顔で見るから、もうそう考えないようにした。
粋は復帰に向けて、必死にリハビリを頑張っている。寿ばかりが過去を気にしてはいられない。
「もうすぐチームに戻るから、そしたら応援してよ」
「うん! するよ! チームの皆にも言うよ。皆、御坂さんのファンなんだ」
粋の顔が嬉しそうに綻んだ。
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