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粋を見ると、穏やかな眼差しでスマホを操作する男の子を眺めていた。
葦沢高校の選手たちは、プレーが上手くいかなくてスランプの時、皆、走っていた。広瀬も与井も山原も里中も。みんなみんな走っていた。
下級生達なんて、ミスをしてもしなくても、上級生に難癖付けられて走らされていたっけ。
全国大会に向かう日の朝。
あの日は少し雪の降っていた。グランドに残っていたボールを見付けたのだろう。これ幸いにと、怪我が完治していないのに、革靴で粋が蹴っていた。たまたま早く来た寿は、粋を怒鳴った。
怒られているのに全く気にしない粋が、突然、寿を抱き締めた。
恥ずかしかった。恥ずかしいのに、振り解けなくて、何よりも嬉しかった。
その後、続々と集まってきた皆に囃し立てられた。
結局、ボールは里中のしまい忘れだった。
連帯責任で、一・二年生はホテルに着いてから、外周を走らされていた。皆、ぶーぶー文句を言いながら、走っていた。罰を命令した粋も、なぜか走っていて監督に怒られていた。
思い出して、つい吹き出した。
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