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駐車場の粋の青い車に乗り込んだ。エンジンを掛けようとボタンに触れた粋は、締めたシートベルトをなぜか外した。
「どうしたの?」
「さっきの子に、これ渡してくる」
手にしたのは、一枚の薄いケースだった。映画か何かかと思ったら、違った。パッケージを見て、驚きを隠せなかった。
『御坂粋のサッカースクール』と書かれている。
「何これ! いつの間にこんなの作ったの?」
「すげーだろ。来月発売だって。サンプルをもらったから、将と錬に持って来たんだけど、あの子にあげてくる。いらんかもだけど……。ちょっと待ってて」
粋は車から飛び出すと、素晴らしい瞬発力を発揮して駆けていった。
足の怪我は、すっかり良くなった。
リハビリも終わって、今は、ユナイテッドの練習に参加させてもらっている。
来月、粋はチームに戻る。
二人でよく話し合い、この子は日本で産むと決めた。寿がベルギーに渡るかどうかは、まだ未定だ。
粋は、寂しいなんて一切言わない。
チームへの復帰をただ楽しみにし、二人の子供が産まれるのを心待ちにしていた。
だから、寿も寂しさは見せない。不安は心の奥底に押し込めて、笑顔だけを見せた。
「おまたせ」
五分と待たずに粋が戻ってきた。
「喜んでくれた?」
「うん。すげぇ喜んでた」
歯を見せて粋が笑った。粋が笑顔であるなら、それだけで幸せだった。
「さて、帰るか」
頷く寿の髪を粋が撫でた。粋の運転で、二人は芹沢家に向かった。
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