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家には、粋の母親が来ていた。
顔合わせで佐知子と粋の母は、なんと意気投合した。歌舞伎が共通の趣味だと知るやいなや、さっそく約束をして、二人で観覧に行った。
不思議な縁だと佐知子も話していた。
不思議な縁が良い縁で、寿は嬉しかった。
大好きな人の母と大好きな母が仲良くなるのは、とても嬉しかった。
粋の母は、粋に似ていた。
顔もだけれど、性格もそっくりだ。
真っ直ぐなところ、少し天然なところ、放っておけないところ。そして、優しいところ。本当に似ていた。
初めて顔を会わせた時、粋がトイレに立ったのを見計らって言われた。
「粋といると苦労が多いと思うの。それでも、粋を選んでくれてありがとう」
目を潤ませて、深々と頭を下げられた。粋の父も頭を下げた。
粋の母自身も苦労をしたのかもしれない。だから、粋が小学生の頃に受けた診断で、グレーだと聞いて、確定ではなかったと安堵し喜んだんだのだろう。
苦労をしたから、人の気持ちが分からないなんて作文に書くなと叱ったのだろう。
粋から作文の話を聞いた時には、なぜありのままの粋を受け入れないのかと腹が立った。
でも、母になる今なら、なんとなく気持ちが分かる。そんな気がした。
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