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「寿ちゃん、健診で疲れたでしょう。座って、座って」
自分が座っていた場所を空けて、勧めてきた。にこにこと笑っている。
「ありがとうございます。今日はもう帰らないといけないので、大丈夫です」
「あら、そうなの? 夕飯を食べていくと思ってた」
佐知子が残念そうに顔を顰めた。
「すみません、僕がチームに呼ばれてしまって。僕だけ帰ろうかと思ったんですが、一緒に帰ると言うので」
「またゆっくり来るよ。どうせ生まれたら、ここに帰ってくるんだし。お義母さんはゆっくりしていってくださいね」
粋の母はにこにこしたまま、突き出してきた腹を見て顔を見た。
「ねぇ、寿ちゃん。赤ちゃんが生まれたら、私もここに遊びに来ていいかしら」
「もちろんです。どうぞ会いに来てください」
粋が眉を顰めた。
「毎日来るぞ、うちの母さん」
「あんたは相変わらず馬鹿だね。出産後の体の変化は、本当に辛いんだよ。そんな時に来るわけないだろう」
「あの、でも、お義母さんが近くにいてくださったら心強いです」
粋の母は看護師だ。今でも現役で、街の小児科で働いている。
「本当に毎日来るぞ」
粋が眉を顰めたままリビングを出て行った。階段の軋む音が聞こえた。錬と将のところに行ったのだろう。
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