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「撮影もあるんだろう? 大丈夫なの? あの韓国だかなんだかの人を信用していいのかね」
「大丈夫だよ。ミシェルはずっと私を支えてくれたの。芙季さん……山崎さんもとっても信頼してるし。心配しないで」
祖母は顔を顰めると、横に置いてある毛糸の入った籠を引き寄せた。
祖母の心配もよく分かった。でも、何も心配する必要なんてない。相手は世界のミシェルだ。
それに、芙季いわく、この結婚式はミシェルから寿へプレゼントなのだそうだ。
聞いた時には、驚きでうまく言葉にできなかった。照れ臭くて嬉しくて、鼻の奥が痛くなった。
「これ、持って行きなさい」
祖母が差し出したのは、良質な綿の糸で編んだ腹巻きとレッグウォーマーだった。
「作ってくれたの?」
「時間があったからね、ついでだよ」
憎まれ口を叩きながらも、着用した時にチクチクしないよう、ちゃんと気遣ってくれているところが、祖母らしかった。
「ありがとう。夜、寒い時は半纏も着てるよ。すごく暖かいよ」
寿が笑うと、ツンとした顔で目を逸らした。
寿の素直でないところは祖母似らしい。
「……こっちに帰ってきてもいいんだよ」
思わず耳を疑った。祖母は暗いテレビ画面を見詰めて呟いた。
「御坂さんは結婚式が終わったら、外国に行くんだろう。産後少しだけ帰ってくるだけじゃなくて、ずっとここに住めばいい。乳飲み子を抱えて一人で暮らすなんて、大変なだけだよ」
何も言えなかった。
本当は粋について行きたい。でも、一人で海外で子育てをする自信はなかった。それに、赤ちゃんを抱えて飛行機に乗るのも不安だった。
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