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寿に電話を架ける前に、シャワーでも浴びようかと立ち上がった。
玄関でベルが鳴っている。ドアを開けると、蒼依さんが立っていた。
「どうしたの? 皆は?」
「あの、忘れ物しちゃって。ごめんね、探していい?」
何を忘れたと言うんだろう。なんとなく二人きりは憚られたから、ドアを少し開けてリビングの入口で立って待っていた。
「あ、あった!」
ソファのクッションの隙間から取り出したのは、花柄のハンカチだった。
蒼依さんは嬉しそうにバッグにそれをしまうと、小走りで俺のところへ来た。
「……本当は元気なかったから心配だったんだよね。ごめんね、私が余計な記事見せちゃったからかな」
「いえ、あれは別に蒼依さんのせいではないよ。どっかでサイモンとかマチューが待ってる? ここに呼ぼうか」
外に耳を澄ませたが、誰の声もしない。
「二人には帰ってもらったの。スーとゆっくり話をしたかったから。もう少し話をしたら駄目かな」
腕時計を見た。もう十一時だ。急いで送って、走って帰ってきたら、なんとか今日中に電話ができるろうか。
「歩きながらでいい? 送って行くよ」
寝室からコートを持ってきて羽織った。
蒼依さんは俺と話ができれば歩きながらでもいいみたいで、大人しく部屋を出た。
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