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蒼依さんが寄ってきて、いきなり手を握られた。
きっと俺は目を白黒させていたと思うけど、暗いし、蒼依さんには分からなかったかもしれない。
「最初は、慣れない土地でやっていくことに戸惑いを感じて、それがストレスになってると思ったの。でも、ここ数日見る感じでは、チームメイトとは上手くやってるみたいだし」
これって、振り払ってもいいのだろうか。
振り払うのはさすがに失礼だろうか。だったら、あれしかない。
俺は、さりげなく蒼依さんの手から逃れて、スニーカーの紐を結び直した。結構、こういう場面で機転が利くようになってきたと自分でも思う。
「さっきの反応を見て確信した。彼女と上手くいっていないの?」
解けてもいない靴紐を結び直して立ち上がった。
俺と寿は、上手くいっていないわけではない。俺が空回りしているだけだ。空回りしすぎて、寿を大切にできていないのが、きっと、全ての元凶なんだ。
「上手くいってます。あれです、ラブラブです」
蒼依さんが吹き出した。
「ラブラブって、お父さんの年代の言葉だよ」
でも、ラブラブだ。熱愛中とでも言えばいいのか。
ジェヒのおじいさんたちみたいに、言葉を交わさずともわかり合えるような、そんな穏やかな関係ではない。
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