Falling Down sui side

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 泣きそうな顔だったくせに、俺のスマホに寿が映っているのを見ると、テレビで観るみたいな笑顔をウィレムは浮かべた。  ベルギー代表でもあるウィレムは、日本でも有名な選手だ。画面の向こうで与井たちは目を輝かせている。俺は、それぞれを紹介した。 「”ちょっといいか、スー。一大事なんだ”」  俺はスマホの受話口を押さえると、ウィレムの話を聞いた。  ウィレムは、俺が絶対に行かなかった、『メンバーの彼女が友達を連れてくる合コンみたいな食事』に何も考えずに出掛けて行ったらしい。それがアンベルにバレて、昨日から連絡しても無視されていると、困り果てていた。  ついてきてくれと言われ、仕方なく俺は通話を切った。今でも、寿の名残惜しそうな顔が忘れられない。  今頃、寿はショーが終わって食事でもしているのだろうか。  今日は、ちょうどブライダルコレクションの折り返しだ。 「”毎日ショーに立つって大変だよなあ”」  ストレッチをしながら呟いた。 「”ショーってコトブキか? 寿は、エクスクルーシブ契約なんだろう? 毎日立つわけないだろう。ミシェルぐらいのデザイナーなら、開催するのはせいぜい二日間じゃないのか”」  呆れたようにウィレムが教えてくれた。  知らなかった。てっきり、毎日毎日ショーに出ているのだと思っていた。もしかしたら、もう終わっているかもしれない。終わったらすぐに帰って来るのだろうか。  今夜は、またマチューたちがやって来る。早く帰らせて、寿に電話をしようと思った。
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