Falling Down sui side

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「これからマチューたちが来るんだ」  帰ってくれるかと思ったが、そんな素振りはなかった。 「何か飲む?」  自分がビールを飲んでいるのに申し訳ないが、蒼依さんには水を出そうと思った。酔っ払ってベタベタ触られては困る。  冷蔵庫の取っ手に手を掛けた時だった。  いきなり、後から抱き締められた。  また混乱した。何が起きているかよく分からなかった。 「……君を放っておけないの。いつも無理してる。私の前では強がらないでほしい」  訳が分からない。  強がってなんていない。これが素だ。俺は、そんなに肩肘張って生きているように見えるのだろうか。 「いや、そんな、強がってないよ。仲間ともうまくいってるし」 「私では駄目?」  何が? 思わず心の中で返した。 「スーが好きなの。最初は医者としてあなたに興味を持った。でも、今は違う。あなたを支えたいの。傍にいたいの」  やっぱりとまたかと待ってくれよとマジかが、心の中で綯い交ぜになった。これは、適当にあしらっていい状況ではない。  俺は、蒼依さんの腕を握ると、腰から剥がした。  振り返ると、顔を真っ赤にして泣きそうな顔をして立っていた。 「君が好きなの。彼女がいるのは分かってる。だったら一度だけでいい。これで諦めるから、抱いてほしい」  ほら、やっぱり俺はチョロそうなんだ。だからこうして、弱みに付け込むようにして女が寄ってくる。  これって、普通の男なら絶対にいくだろう。この顔に絆されて、抱き締めるだろう。  俺は蒼依さんの肩に手を掛けた。
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