Falling Down sui side

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「できない。無理だ。俺は、手を握るのも抱き締めるのもキスもセックスも、寿としかしたくない。他の女とはしない。気持ちはありがたいけれど、絶対にやらない」  蒼依さんの顔が白くなって赤くなって、くしゃくしゃになって、最後は目から涙が溢れ出した。 「あの人だって、派手に遊んでいるんでしょう? ジェヒとの雑誌も私は見たよ。恋人同士みたいにベタベタしていたよ。あれは酷いよ。スーが可哀想」  蒼依さんが両手で顔を覆った。  気付かれないようにポケットからスマホを出した。いいタイミングでウィレムからメッセージが来ていた。『help』と入れて、送信した。 「酷くないよ。あれは、仕事だから。寿の仕事なんだ。それに、寿は遊んだりしていない。浮気もしてない。俺たちは信頼し合ってるんだ。だから、蒼依さんにいくら言われても俺の心は揺らがないし、誘惑にも負けない。それに、いくら蒼依さんでも、寿を悪く言うのは許せねえな」  蒼依さんの顔が夜叉のようになって、思いきり顔を引っ叩かれた。  また訳が分からない。引っ叩かれるようなことなんてしてない。 「誘惑って……そんな言い方するなんて最低!」  もう本当に全く意味が分からない。  呆気にとられていると、いきなり、着ていたカットソーを脱ぎ出した。脱いだのだから、もちろん、下着姿だ。俺を睨んでいる。 「スーが抱いてくれないなら、私はこの姿でピーターのところに駆け込むよ。あなたに襲われそうになったって」  さっきから何回も混乱しているけれど、混乱なんてレベルではなくなった。暴動だ。脳細胞全てが、大パニックになっていた。
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