Falling Down sui side

34/36
前へ
/350ページ
次へ
 泣き出しそうに眉を顰めて、俺を見上げてから、俯いた。 「ごめん、急に。どうしても、会い……た……かった……」  俯いた寿の視線が固まった。寿の目線の先を追って、何を凝視しているのか分かった。  蒼依さんが履いてきた踵の低いパンプスだ。蒼依さんが来た時には、雨が降っていたはずなのに、小降りだったからかパンプスの先は乾いていた。  部屋の奥で、ウィレムの叫び声がした。  振り返ったと同時だった。  胸元までジッパーを下ろした俺のパーカーを羽織った蒼依さんが、腕に絡みついた。 「スー、誰?」  甘い声を出して見上げられた。  やられた。何もかもがタイミングが悪い。  まるで、何かに諮られて陥れられたみたいだ。  寿の大きな黒目が、今まで見た中で一番小さくなった。  初めて見た表情だった。  怒りと悲しみと絶望と、失望。全部が、目や眉や頬や口元に出ていた。
/350ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1716人が本棚に入れています
本棚に追加