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泣き出しそうに眉を顰めて、俺を見上げてから、俯いた。
「ごめん、急に。どうしても、会い……た……かった……」
俯いた寿の視線が固まった。寿の目線の先を追って、何を凝視しているのか分かった。
蒼依さんが履いてきた踵の低いパンプスだ。蒼依さんが来た時には、雨が降っていたはずなのに、小降りだったからかパンプスの先は乾いていた。
部屋の奥で、ウィレムの叫び声がした。
振り返ったと同時だった。
胸元までジッパーを下ろした俺のパーカーを羽織った蒼依さんが、腕に絡みついた。
「スー、誰?」
甘い声を出して見上げられた。
やられた。何もかもがタイミングが悪い。
まるで、何かに諮られて陥れられたみたいだ。
寿の大きな黒目が、今まで見た中で一番小さくなった。
初めて見た表情だった。
怒りと悲しみと絶望と、失望。全部が、目や眉や頬や口元に出ていた。
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