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雨が凄い勢いで降っている。
俺の部屋へ上がる階段は、雨の日は滑りやすい。
寿は、キャリーケースを持ち上げると、階段を降りようと階段を一歩踏み出した。
重そうなキャリーケースをここまで一人で持ち上げて来て、どんな気持ちだっただろう。
絶対にワクワクしていたはずだ。
俺に会える。そう思って、楽しみで仕方なかったはずなんだ。
高いヒールが階段の縁に引っ掛かり、もう片脚の爪先が水の上を滑った。
咄嗟に、蒼依さんを突き飛ばして、寿の腕を掴んで引き寄せた。
キャリーケースが階段を落ちる音は、飛行機のエンジンから出る轟音に似ていた。
寿を抱き締めた。
この音が、キャリーケースが階段に当たる音なのか、俺の体が階段に当たる音なのか、分からなかった。
ただ、寿を強く抱き締めて祈った。
神様。俺は、もうサッカーができなくてもいいです。でも、寿には傷を付けないでください。寿は、素晴らしいモデルなんです。
お願いです。寿だけは助けてください。
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