Withered Tears

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 雨が酷かった。  とにかく、粒の大きな雨がひっきりなしに空から降っていて、せっかく履いてきたお気に入りのヒールもびしょ濡れだった。冷たかったけれど、気にならなかった。  もうすぐ粋に会える。  それだけで、夜の寒さも雨の冷たさも、神様からのとても素敵な贈り物みたいに思えた。  それなのに、寿の履いてきたお気に入りのヒールは、両足とも足から脱げて、離れたところに転がっている。  寿の下には、粋が横たわっている。  抱き締められていた腕は、力なく寿の肩から滑り落ちて、水溜まりから飛沫が上がった。 「……粋?」  粋の額から赤い雨が流れた。 「粋?」  返事がない。  長い睫毛に雨粒が降りかかる。  階段から、ウィレムが駆け降りてきた。オランダ語で何かを叫んでいる。通りのほうからピーターと傘を差したソフィーがやって来た。後にはアンベルもいた。  やっぱり皆、何かを叫んでいる。  雨粒が、ハイスピードカメラで捉えられたように、ゆっくりとゆっくりと落ちて、粋の頬の上で何度も跳ねた。
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