Withered Tears

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 救急車は二台来た。粋にはピーターと粋のパーカーを来た女が付き添い、寿にはアンベルが付き添った。ウィレムは、後から車で来ることになった。  寿の診断は、足の擦過傷と軽い打撲だった。念のために今夜は入院し、明日検査をして問題なければ、退院していいと言われた。  粋が守ってくれたお陰で、顔には一つも傷が付いていなかったし、頭も打たなかった。  粋は、意識が戻らずに集中治療室にいると、病室に入ってから、アンベルが言い辛そうに教えてくれた。 「”スーは、全身の打撲と、頭のここ”」  アンベルが押さえたのは、左の前頭部だった。 「”ここを打っていて、裂傷がひどくて何針か縫ったって。意識が戻れば病室に移れるけど……でも”」  アンベルの顔が曇った。話しづらそうな顔で、なんとなく想像がついた。 「”サッカーができないほどの怪我なの?”」  アンベルが唇を噛んだ。言い淀むアンベルの代わりに答えたのは、病室にやって来たウィレムだった。 「”右足首を捻っていて、もしかしたら、もうサッカーはできないかもしれない。可能性の問題だ。あくまでも、かもしれない。だからコトブキ、君が気にすることではないよ。コトブキは一つも悪くない”」  右足首は、高校三年生の時にも痛めていた。  集中治療室にいる粋は、まだ目を覚まさず、足はひどい怪我をして、選手生命の危機に瀕している。  それなのに、寿の傷は擦過傷と軽い打撲で、こうやって水を飲めて意識もあって話せるし歩ける。 「”どうして神様は、粋に怪我をさせたのかな”」  神様が粋に怪我をさせた理由が分かれば、なぜ粋が寿を庇ったのか、その理由も分かるような気がした。 「……ストラフ?」  オランダ語だろうか。
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