Withered Tears

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 意味が分からなくてアンベルを見たら、ウィレムが教えてくれた。 「”罰だよ。ペナルティだ。でも、それは違うよ、アンベル。スーは何も罪を犯してはいない”」 「”だったら何で、アオイがスーの部屋にいたの?”」  さっきの女の人はアオイと言うらしい。 「”……ウィレム、私だったら大丈夫だよ。教えて、粋のパーカーを着ていたあの人は誰?”」 「”あれはうちのチームのメンタルドクターだ。スーのパーカーを着ていたのは成り行きで、俺もあの部屋にいた。スーはコトブキを裏切ってない”」  ウィレムの目は真っ直ぐで、嘘を吐いているようには見えなかった。  でも、寿は粋を疑っていた。ウィレムにそう言われても、その気持ちは変わらない。  寿が着たら、袖も丈もピッタリなパーカーがアオイにはブカブカだった。身長もいい感じで、立ってバックハグされても、すっぽりと粋の体に収まっていい具合だろう。ジッパーから見えたたゆたう胸は柔らかそうだった。  凄く体が熱かった。吐き出す息も熱い。  一か月前にはあんなにぞんざいに扱われて、誕生日の電話もあっさり切られて、今日来てみれば、胸を晒した女が部屋にいて。信じてくれと言われても、はいそうですかとはいかない。  どうして粋は、いつもこうなのだろう。本当に阿呆だ。  そんな阿呆を好きなのだから、寿も大概だ。 「”コトブキ、顔が赤いよ”」  アンベルが手を寿の額に当てた。 「”凄い熱だよ! ウィレム、看護師さん呼んできて”」 「”ナースコールの方が早いだろ”」  とても眠かった。このまま眠り、翌朝に起きたら全て夢だったらいい。  隣には粋が寝ていて、二人で同時に起きて、おはようのキスをして、笑って抱き合いたい。  雨の音が大きくなった。外は土砂降りなのだろう。寿の意識は、そこで途切れた。
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