Withered Tears

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 肺炎などにはなっておらず、明日一日様子を見て、再度発熱しなければ退院しても良いと言われた。 「”警察が来ているんです。意識もはっきりしているようだからお通ししますが、いいですね?”」  返事をする間も質問する間もなく、恰幅のいい制服姿の男が入ってきた。 「”警察……ですか。何か寿に用でしょうか”」  眉を顰める芙季に、青い帽子をかぶった男は笑った。人の良さそうな顔だった。 「”まだ入院されているのに、すみません。レオネンのミスター・ミサカの事故について確認させてください。先に階段を降りたのはミス・セリザワ、あなたで間違いないですか?”」  寿は、一瞬、問われている意味が分からなくて考えた。 「”……はい。私が階段を降りて、ヒールが引っ掛かって滑ったところを粋が助けてくれました”」 「”ありがとうございます。よく分かりました”」 「”なぜそんなことを確認に来られたのですか?”」  言いにくいのか言ってはいけないのか、男は少し考えて口を開いた。 「”あなたがミサカを階段から落としたって証言があったんでね。一応、伺いに来ました”」  寿は芙季と顔を見合わせた。 「”それは、寿が御坂を突き落としたと……そう仰りたいのですか? この子がそんな犯罪染みた真似をするわけありません! 誰ですか、そんな出鱈目を……”」 「”落ち着いてください、確認です。レオネンのチームメイトのウィレムから先にあなたが階段から落ちたと証言があるので、我々は疑ってはいません。事件性は全くありませんでしたので、ご安心ください”」  人の良さそうな警察官は、本当に確認だけをして、病室から出て行った。  ドアの閉まる様を寿は見詰めていた。
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