Withered Tears

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「ちょっと、何あれ! あなたが御坂を落としたって、絶対にそんなわけないのに、誰が適当なことを……! 寿、大丈夫よ! もし警察がまた来たら、私が追っ払ってやるから」  芙季は怒り心頭に発していた。  誰が言ったのか、何となく想像はつくが、あまり考えたくなかった。  寿が粋を落とすなんてあり得ない。あの時、咄嗟に身を引こうと思った。  粋の未来のために、粋を諦めなくちゃいけないと思った。 「芙季さん、私のバッグある? 歯磨きしたい」  部屋にはトイレとシャワーが備え付けられていた。  そこで歯を磨き顔を洗った。  酷い顔だった。肌はカサカサで、クマができているし、唇の横には吹き出物まである。ミシェルがいたら、キレられそうだ。  指で脂っぽい髪を梳いていたら、慌ただしくアンベルが入ってきた。 「”コトブキ、目が覚めたのね!”」  目が覚めてそんなに経たないのに、人がひっきりなしにやって来る。開け閉めに忙しくて、病室の引き戸も疲れているように見えた。 「”スーの意識が戻ったの。少しだったら話してもいいって、今聞いてきたから。早く行こう”」  粋の意識が戻った。夢は逆夢だったのだ。良かった。  本当に良かった。 「ここで私は待ってるから、行ってきなさい。あ、ちょっと待って」  芙季は寿の髪を梳いて、リップを塗った。 「はい、いいよ。行っておいで」  少しはマシになっただろうか。  寿はアンベルの後をついて病室を出た。
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