Withered Tears

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 集中治療室の入口で、二人は足止めを食らった。正確には、寿がだ。 「”ごめん、コトブキ。私ちゃんとルールを読んでいなかった”」  入院中の患者は、感染症予防のため中には入られないルールだった。本当は、身内でなければ入れないらしい。ただ、粋は例外で、ピーター一家とウィレムとアオイは面会できるように登録されていた。寿の名はなかった。 「”ううん。私、ここで待ってるから。粋の様子を後で教えて”」  アンベルは何度も謝り、泣きそうな顔のまま中に入って行った。  自分の名前が面会者リストに登録されていないのは、ショックだった。粋が登録したわけではないのは分かっているが、それでも弱気な気持ちが膨れ上がれ、挫けそうになるのは否めなかった。  粋はいつも、俯くなと寿に言った。俯きたくはない。でも、気付けば俯き、肩を落としていた。 「”あれ? コトブキ。目が覚めたのか? もう歩いていいのか?”」  顔を上げると、ウィレムが立っていた。 「”ウィレム、いろいろと迷惑を掛けてごめんなさい。アンベルは今、粋に面会に行ってる”」  ウィレムはルールを知っていたのだろう。肩を竦めると、コートを脱いで寿の肩に掛けた。 「”アンベルが君にぬか喜びをさせたんだな。悪かったね。ここは寒い、これを着て待ってて。スーに寿は元気だと伝えるよ”」 「”アンベルは悪くないの。よくよく考えれば分かったことだもの。コート、ありがとう”」  ウィレムは微笑むと早足で中に入った。  寿は再び俯いた。
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