Withered Tears

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 寒気がした。発熱したのかと思ったが、寒気とは違う感じだ。寒くはないのに歯の根が合わない。  震える右手を震える左手で押さえた。  もしも、サッカーができなくなったらどうしよう。  寿は、粋からサッカーを奪った自分を許せないだろう。何よりも、サッカーを奪った寿を粋は許さないだろう。  泣きそうな気がして、天井を見上げた。ちっとも景色が潤まない。  泣くには体力がいる。  いろいろなことがあり過ぎて、泣く気力も体力もないと、気が付いた。  寿の涙は、とっくに枯れていた。  どれくらい時間が経ったのか、全く分からなかった。止まらない震えに耐えていたら、二人が出て来た。 「“コトブキ! 顔色が悪いよ!”」 「“うん。大丈夫。少し貧血気味なのかもしれない。粋は? 元気だった?”」  アンベルが隣に座った。アンベルの柔らかくて小さな手が寿の手を握った。少しだけ、震えが治まったように思った。 「“うん。元気だった。でも……”」  でも? 嫌な予感を打ち消すように、言い淀むアンベルを見た。 「“薬が効いていてね、あまり話せなかったんだ。コトブキは元気だと伝えたら、喜んでいたよ”」  寿はウィレムの言葉に安堵した。  意識が戻ったばかりなのだろうから、薬が効いていて朦朧としているのは仕方ないのかもしれない。 「“とりあえず良かった”」 「“コトブキが笑った。良かった”」  二人も安堵したように笑った。  分厚い自動ドアの向こうの粋を思って、寿はアンベルたちと病室に戻った。
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