Withered Tears

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 芙季はしばらく考えた後、真剣な瞳で寿を真っ直ぐに見た。 「何で階段から落ちたの?」 「雨で滑ったんだよ」 「それは聞いた。訊きたいのはそれじゃないわ。なぜ、雨の酷い夜に、御坂の部屋から帰ろうとしたの」  寿は、繋げる言葉を考えた。  ウィレムの言葉を信じるならば、アオイが部屋から出てきたのは何かの間違いのはずだ。だとすれば、余計なことを芙季に言わないほうがいい。  芙季は、恐らく寿と粋の交際をポジティブには思っていない。帰国時から何となく感じていた。  寿が見たままを話せば、別れるように進言されるかもしれない。 「忘れ物を思い出して、買いに行こうと……」  寿を見詰める芙季の瞳には、少しの濁りもなかった。たぶん、全部見透かされている。そう直感して、寿は俯いた。  病室のドアが揺れた。ノックされたみたいだった。誰かが来たようだ。看護師ならそのまま入ってくると思い、返事をせずに見ていると、またノックされた。 「はい」  声を掛けると、ゆっくりとドアが開いた。  アオイがいた。
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