Withered Tears

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 ベッドに腰を掛けていた寿は、驚きを隠せないまま立ち上がった。 「どうぞ座っていてください」  粋の部屋で聞いた甘い声とは違う、ハキハキとした社会人らしい声だった。 「はじめまして、私、グルーネ・レオネンでメンタルドクターを務めています、神部蒼依です」  蒼依は、まず寿に名刺を手渡し、隣で唖然としている芙季に名刺を差し出した。  名刺には、オランダ語だろう、『Groene Hart Mentale Kliniek』と書かれていた。  童顔な蒼依は、芙季より若く見えた。落ち着きを取り払えば、寿やアンベルと同い年に見えなくもない。  蒼依の説明では、ブリュッセルの病院で働いた後、昨年の春に開業し、今年の初めに声を掛けられてレオネンのメンタルドクターに抜擢されたようだった。 「ご丁寧にありがとうございます。わざわざ病室に来られるぐらいですから、ご存知かもしれませんが、私は、芹沢寿のマネージメントをしています、アテーネの山崎芙季です」  年の功だと言ったら、激しくキレられそうだが、さすがだと思った。  動揺する寿の前に立ち、芙季は名刺を差し出した。 「もちろん、存じ上げております。このたびは、芹沢さんが何か誤解されているかもしれないと思い説明に参りました」  とても威圧感があった。落ち着いた様子もゆったりとした口調も、寿の心をヤスリで撫でているようだ。寿は、震え出しそうな指をきつく握り込んだ。
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