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ただ頬を染めているのはいただけない。
コスプレに照れは不要だ。
羞恥心を超えた先に、非現実を宿す力が手に入るのだ。
こっちはやっとの思いで笑顔を保っているのに、男は視線をうろうろ彷徨わせながらゴニョゴニョ話した。
「先日は……世話になったな。また会えるとは僥倖だ」
(世話になった? また?)
あの子と私が会ったのを知っている。
先週の話を聞いたのかもしれない。
やっぱり彼らは他人の空似ではなさそうだ。
「今日あの子は来てないんですか」
「あの子とは?」
「先週、あなたによく似たお子さまに会いました」
「ああ……それは私だ」
「そ、そんな訳ないでしょう。大人と子どもじゃないですか」
「しかし同一人物だ」
「……そういう設定なんですか?」
「ん?」
吸血鬼キャラの、幼少期と成人期の『併せ』をしていたのだろうか。だったら同一人物という説明も納得できる。
「何だ。あちらの我に会いたいか」
「あちら?」
「会わせてやってもいいが、代わりにまたお主の血をよこせよ?」
「どういう」
意味?……と聞き終わる前に、男の右胸に穴があいた。
(――は?)
沈みかけの夕日よりも紅い血しぶきに眩暈がする。
(待って、グロはちょっと守備範囲外――)
目の前が真っ暗になった。
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