5. 生意気な少年ヴァンパイア

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 華奢な首には不釣り合いな、黒い皮の首輪が巻かれていた。しかもど太い鎖が一本繋がっている。長さは30センチくらいだけど、動くたびにジャラジャラ揺れるのは鬱陶しそうだ。  熱でもあるのか、顔から耳まで赤いし息も荒い。  なんだどうした救護室案件ですか。   「大丈夫? お家の人は?」  吐いた息と一緒に力も抜けたのか、少年は崩れ落ちるように座り込んでしまった。慌てて私も腰を下ろす。    ここが芝生でよかった。  コンクリートだったら怪我をしていたかもしれない。   「お名前言える? おんぶできるかな……休憩するところに行くからね」  「お主、われに首をさしだせ」 「え?」 (なんで? 吸血鬼だから? 撮影でもないのに演技の必要ある?)  意図が分からず困惑していたら「はやく」と急かされる。   「首は……嫌だなあ」 「なら手首でよい。すこし貸せ」  まあ手首なら……嫌だけど。  でも断って駄々こねられても困るし。 「手首見せたあとは、移動するからね?」 「良い。早くしろ」  仕方ないなあとシャツの袖をまくる。  白くて細い二本の腕が伸びてきて、私の腕を掴んだ。そのまま驚くくらい強い力で彼の口元に引き寄せられる。  で、なんの戸惑いもなく、少年は私の手首に歯を立てた。 「なっ!?」  い……痛くはない。けど本当に噛みつくんかい。  離すよう少年の体を押そうとしたら逆に押し倒された。  あっけに取られているうちに視界と、意識もすこしずつ、かすんでいく――   「ああ、なんと美味」  少年とはおもえない、妖艶な笑みに……せすじがぞくりとする。    そこで私の記憶は途切れた。
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