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華奢な首には不釣り合いな、黒い皮の首輪が巻かれていた。しかもど太い鎖が一本繋がっている。長さは30センチくらいだけど、動くたびにジャラジャラ揺れるのは鬱陶しそうだ。
熱でもあるのか、顔から耳まで赤いし息も荒い。
なんだどうした救護室案件ですか。
「大丈夫? お家の人は?」
吐いた息と一緒に力も抜けたのか、少年は崩れ落ちるように座り込んでしまった。慌てて私も腰を下ろす。
ここが芝生でよかった。
コンクリートだったら怪我をしていたかもしれない。
「お名前言える? おんぶできるかな……休憩するところに行くからね」
「お主、われに首をさしだせ」
「え?」
(なんで? 吸血鬼だから? 撮影でもないのに演技の必要ある?)
意図が分からず困惑していたら「はやく」と急かされる。
「首は……嫌だなあ」
「なら手首でよい。すこし貸せ」
まあ手首なら……嫌だけど。
でも断って駄々こねられても困るし。
「手首見せたあとは、移動するからね?」
「良い。早くしろ」
仕方ないなあとシャツの袖をまくる。
白くて細い二本の腕が伸びてきて、私の腕を掴んだ。そのまま驚くくらい強い力で彼の口元に引き寄せられる。
で、なんの戸惑いもなく、少年は私の手首に歯を立てた。
「なっ!?」
い……痛くはない。けど本当に噛みつくんかい。
離すよう少年の体を押そうとしたら逆に押し倒された。
あっけに取られているうちに視界と、意識もすこしずつ、かすんでいく――
「ああ、なんと美味」
少年とはおもえない、妖艶な笑みに……せすじがぞくりとする。
そこで私の記憶は途切れた。
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