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ライターの火が燃え上がり、水の人間を焼く。
「イヤだ…なぜ…私はまだ恨みを晴らしてない!」
「なら先に地獄へ行ってるマーガレットと、永遠にケンカしてればいい」
幽霊…マクゲイン刑事…は、もう文字が消えたトレンチコートを脱いで、私に放った。
「お前の力が無かったら、俺は誰も救えなかった……ありがとう」
コートは暖かかった。
「元気でな」
彼が火に飛び込むと同時に火が消え、銀のライターが水浸しの床に落ちた。
※※※
図書館に通い詰め、十年前の記事でやっと見つけた。マクゲイン刑事の記事。連続水死事件の捜査中、彼も犠牲者のひとりとなったらしい。
ミズーリの方は、三十年くらい前に同名の人気占い師がいたとわかった。十五年前に鬼籍に入っている。見つけた写真と、あの水でできた顔が同じ顔かどうか、今も自信が持てない。
で、マーガレットて結局、誰?
遠い親戚かもしれないが、私にはもう身寄りがない。調べる術がなかった。
けど、そういえば親類縁者の訃報は立て続けだったことに気がつき、ゾッとした。
前より給料は少し低いけど、めでたく再就職できた。いい職場だと思う。まだ人は怖いし、ロクでもない人もいるにはいるけど、かわしたり無視すればいい。私も呪いのせいで、あしらい方を覚えたのだ。
ぺちぺちぺち。
トレンチコートをかけた墓石の、Mの文字を三回叩く。
赤毛碧眼の幽霊は出てこなかった。
「すぐくるって契約したじゃない、守んなさいよ」
ショールを確認する。やっぱり文字は浮かんでいない。
「アンタが吸ってた煙草、もう作ってないんだって。コレじゃダメかしら」
煙草を一箱、銀のライターを、花束の横に置く。
ぺちぺちぺち。Mの字を三回叩く。
「もう一回くらい出てきて、お礼くらい言わせなさいよぉ」
ぺちぺちぺち。
「も〜…そっちの世界にカーテンコールはないの〜⁈ やっぱり煙草はアレじゃないとダメなの〜?」
いつまでも煙の混ざらぬ風が、寂しかった。
(了)
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