煙たい幽霊

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「俺はショールを拾えない。悪いが自分で取ってくれ」 「あ……あ」  今更のようにガタガタ震えが来て、涙がボロボロ出てきた。でも、泣いてる時間はない。煙草が消えたら幽霊も消えてしまうのだ。カクカクしながら、なんとかショールを取り、強く体に巻く。 「あ…ありがとう…」 「遅れてすまん。雨で行動が遅れた」  幽霊は苛立たしそうに煙草をスパスパ吸っていたが、一気に煙草が減ったのをみて唇から離した。 「煙草……少ないって…」 「これが最後の箱だ」  幽霊は箱を開けて見せてくれた。煙草が一本。 「無くなると…どうなるの…?」 「姿が出せなくなる。奴に……」  またミュートされた。幽霊はため息をついて「気にするな」と言った。いや気にするでしょ、大事な一本使わせちゃったじゃないの。  時間がない。聞いた。 「わ…私が、アンタを呼ぶ方法って、ある…? 今回、みたいな時…に」 「名前は教えられない」 「あだ名とか…は…」 「ふむ」  足元には、さっきの男が散らかして行ったハンバーガーの包み紙やカップが落ちていた。 「M…そうだな。ちょっと呼んでみてくれ」 「え…M」  コートに文字は出ない。 「いけそうだ。お前、そのショールをいつも持っているな? じっとしてろ」  幽霊は、私のショールに煙草の火で字を書いた。 『メリーアンはMの文字を三回叩けば俺を呼べる』 「これでいい。何かあれば、Mの字を三回叩け。Mの字なら何でもいい。そうしたら雨でも雪でも、俺はすぐ駆けつけられる」  煙草が消え、幽霊も消えた。 「あ、待って! た、煙草は…使わなくていいから教えて!」  呪いのことで、ふと気になったことを慌てて聞く。 「家で……私、家の中で、火花を、見た事がない。家の中には、呪いは、来れないの? YESなら一回、NOなら2回、火花を散らして」  火花は一回、散った。
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