煙たい幽霊

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 生活用品をめちゃくちゃ買い込んだ。  態度の悪い店員や、通りすがりに罵倒していく変な人がアホほどいたけど、無視した。雑魚な呪いで凹んでいられない。車とか自転車とかのヤバいのは、火花が知らせてくれる。そん時は素直に逃げた。  これは、呪いから逃げるための籠城じゃない。  私が長いこと出てこなかったら、呪いの主(どんな奴か知らないけど)は、何とかして私を外に出そうとしてくるはずだ。そこでアイツを呼べばいい。  部屋のあちこちに「M」が書かれたグッズやメモを置いた。もちろんポケットにも入れておく。  さあ、私を外に出せるもんなら出してみろ!  1日目は普通に終わった。  2日目、頼んだ覚えのない配達が数件きたが「いま熱を出してて出られません」で乗りきった。みんな、玄関に何も置かずに消えた。  3日目。雨が降ってきた。そして、水道が止まった。 「えっ、ちょっと……マジで⁈」  これは困った。一応、飲料水も買い込んではあるけど、お風呂やお手洗いの水はどうしよう?  水道屋に電話しかけて、止めた。業者が来たら、イヤでもドアを開けなければならない。  窓の外は雨。雨水を溜めようか。いやでも、窓を開けたらどうなる? 引きずり出されるかしらん? 三日で開城は少し早すぎる。  もう一度、蛇口をひねる。出ない。 「も〜、お願いだから出てよ水〜!」 『呼んだな』 「⁈」  蛇口の奥から声がして、思わず後ずさった。  開けたまんまの蛇口から大量の水が溢れて、私を壁に叩きつけた。 「……っは」  Mの刺繍を入れたショールが流れて行った。ポケットのメモも取られた。蛇口を閉めたいが、水に押し付けられて足どころか手も、壁から動かせない。  水の塊が人の形になり、喋った。 「ははは、やっとだ、やっとお前ら一族への復讐が終わる!」 「復讐……?」 「この私から恋人も財産も奪ったマーガレット一族への復讐だ!」 「マーガレットて誰⁈」  知らない。おばあちゃんや親戚にも、そんな名前の人はいなかった。いや本当に誰? 「私から何もかも奪ったのだ、私はお前ら全てを奪ってやる!」  水の塊が私を飲み込んだ。  出られない。でも、!  首の後ろに手を入れた。病んでも維持した我が体型に祝福あれ!  サイズ・M。  ドン、と、火が上がって、水の塊が床に溶けた。  赤毛の幽霊を見て、水の人間が悲鳴を上げる。 「マクゲイン刑事⁈ お前がなぜここに」  幽霊の横顔が、凄みのある笑顔に歪んだ。 「覚えててくれて嬉しいぜ、ウォーターサイド・ミズーリ。どれほど会いたかったことか。おかげで」  トレンチコートの背中に、赤い文字が走る。 『名を呼んだ者一名を地獄へ落とす権利を与える』 「ようやくお前を地獄に落とせる!」
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