煙たい幽霊

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 パワハラ上司とその仲間のおかげで病んだ。  人間が怖い。一対一でも集団でも怖い。買い物もままならなくなり、医師の勧めで地方に引っ越した。身寄りも友人もないから、元いた土地に未練もない。  だが、新しい街に来てから、おかしなものを見るようになった。  火花だ。  家の隅。ガレージの奥。自販機と壁の隙間。  暗がりの中に、バチッ、バチッと火花が見える。その方向に行くと、落ちてくる植木鉢から逃げられたり、突撃する車から逃れられたりするのだ。  今日もショールを肩にかけて外に出る。長年使ってるコレのおかげで、外には出られるようになった。しっかりするのよ、メリーアン。言い聞かせて玄関を出る。  買い物に来たところ、ビルとビルの隙間に、火花が見えた。その細い路地に入ると、さっきまでいた所に店の看板が落ちてきた。  いつもなら、気味が悪くて家に帰る。でも今日、火花が散る時に宙に浮くライターも見えた。お化け? でもお化けは、人間より怖くない。 「何なの…?」 「答えられんことが多いが」 「ひゃっ⁈」  耳元で声がして、ひっくり返りそうになった。  暗がりの中、銀のライターの蓋が開き火がつく。  まず、それを持つ手が浮かび上がった。  続いてタバコ、それを咥える口元。  火のような赤い髪と、とぼけた色のトレンチコートを着た、若い男の姿。  ふー、と煙を吐くと、青く鋭い瞳を私に向けた。 「正体を見ようとしたのは、お前が初めてだ」  ビックリした。ほんと誰?
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